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ふと、ひどい言葉を吐きそうになる。いつもは堪えているけど、その日はどうしてもダメだった。
こころが、せきを切ったから。




お前が悪いんじゃない。けど、俺が悪いわけでもない。


…ただ、なにかが空っぽなんだ。何もなかったんだ。
だから、すべて押しつけて、俺はさっさとベッドに駆け上がってあったかな毛布にくるまって…また日差しの中にある朝を迎えるつもり。俺は、悪くない。だってぜんぶ“無かったこと”なんだから。理由がなければ責める事なんてできやしない。ありえないじゃないか。無い“モノ”を証明なんてできないんだから。身勝手だって?どっちが?でもこれだけはホントさ──ぜんぶ忘れて、お前におしやって、ゲームみたいにボタンひとつでリセットしてしまいたかったってコト。

怖い目で見たって無駄さ、俺はこの歳になった時にいつだって覚悟はできてた。お前と何年も暮らしたんだぜ?その部分だけなら俺はダメツナから卒業できたと思ったよ。お前の視線を真に受けてもいっぱしにモノが言えるんだから。だから拳銃を向けたって無駄だよ、お前はムダが嫌いだから、その拳銃もすぐふところに仕舞う。ほら、言ったとおりだ。オカシイね、お前のやることが手に取るようにわかるなんて。
──たぶん、終わりが近いんだろうね。俺たちの、さ。


「       」


聞こえないよ。聞きたいとも思わなかったけど。でもさその、カオ、やめてくれよ。なんか気持ちが落ちつかないからさ。お前のためじゃない。これは俺のためなんだからいいじゃないか。お前が俺の気持ちなんて知らないから、俺だってお前の気持ちなんて知らない。それに知りたくもないよ。嫌だから。知るのが辛いから逃げてるって?なんで?お前が満足いくまで鍛え上げた『俺』にむかって言ってるの?よく言えるよね。ほんと凄いよその不貞不貞しさ!

──俺はこんなにも空っぽなのに。お前はなにをしてくれた?

ああ、ごめん。全部もってるお前にはわからないよね。最強のアルコバレーノだもん、仕方ないよね。俺がバカだった。ごめん、だからさ、これ以上俺にイロイロ求めないでよ。はじめて会った時にも言ったと思うけど、やっぱり迷惑なんだよ、お前。まあ、今更言う俺も俺だけどね。会って数年はもしかして、と思ったりもしたけど。でもそれまでだったみたいだ。俺の勘違いだったみたい。ほら俺、今でもけっこう騙されやすいからさ。お前の望むモノになれる適正なんて無かったんだよ。わかる?わかるよね?お前は俺の何百倍も理解が早い天才なんだから。だからさ、認めてよ。こんな簡単なことなんだから。

──お前ができることにも限界があったってコト。

うるさいなあ…俺が今ここで舌かみ切っても良いの?俺はね、ここから出たいんだ。だから追ってこないで。ここに俺が求めているものなんて無かったんだ。あるのはお前と、お前の周りのヤツが求めていたモノばっかり。俺には何一つない。欲しいものは全部捨ててきたから。思えば何で捨てちゃったんだろうね。気持ちが高ぶってたから?それとも何かを守りたかったから?そんなもの、こんな気持ちになるって知ってればこっちから断ち切ってやったのに。願い下げだったよ。ああ、ほんとうに俺はばかだ。ばかすぎる。


「       」


……まだ、言うんだね。どうしたの?いつもは自分のペースでこっちの言う事なんて全然聞く耳持たないのに。あ、もしかして今悪かったとか思ってるの?ありがとう、でもね、もう困るんだ。俺決めちゃったから。お前と道をたがえなきゃ、って。唐突?そうかもね、昨日は普通だったから。俺もちょっと魔が差したのかもしれないね。じゃあ、あとちょっとだけ時間をあげる。好きに使って?でも、俺はここにいたいからお前はここから出ていってね。それが条件。

──だから、戻ってこないで。
















…お前は嫌い。大っ嫌いさ。だから言ってやった。とうとうぜんぶ言ってやった。ダイヤみたいに硬いプライドで作られたあの背中にたっぷり罵声を浴びせてやった!当たり障りなく生きてきたけど、正面から向き合ってみれば所詮これが俺だから。どう?俺は特別でしょう!?してもらった恩もこうやってみごとに洗い流してみせた。汚さと図々しさといったら多分、悪魔に賞賛を贈られる!













…嫌だなんて思ってない。
不満なんてあるわけがない。
空っぽだなんて感じるわけがない。

あったのは、ひとにぎりの寂しさだったんだ。



──あいつは気がついてくれるかな。

でもこのまま離れてくれても俺は構わない。でも……構うけど…それだけのことを俺は今自分の口から云ったから。あいつの黒い瞳を受けても、止まらなかったから。とめられなかったから。あいつに何かを吐露するたびに自分のこころが浄化されていくのがキモチよくて…どうしてもやめられなかった。このままどうにでもなってしまえ、って。お前を罵ったとき心の底から思ってた。だから、お前が背を向けて行ってしまった重い扉をたたく資格なんて俺にはもとから与えられてない。俺が弱いのは自分でも知ってる。でもこれは…こんな相手を傷つける弱さは『弱さ』じゃない。そんなヒトコトで片付けられやしない罪じゃないか!でも、でも…ああするしかなかったんだ…でないと俺がどうにかなってしまいそうで………だから……お願い……




「…怖い……リボーン…」