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(…あったかいな)


──涙が、あふれそうになる。
抱きしめた瞬間分かった。全身からこみ上げるこの暖かい気持ち。
お前のスーツはその性格みたいに冷たくて、冷え切っていた。
それを当たり前に着こなすお前はやっぱりそういうヤツだと思ってた。けど、だけど、どうして俺をこんな気持ちにできるんだ…
痛みを感じるほど叩きつけられた感情、だけどそれは黄金になって時に俺を包むんだ。

「…魔法みたいだ」

目の前の少年の歳くらいのいつかの自分。まだそういう不思議な力を持ってる人間がこの世にいると思ってた。さっきまで居ないと信じてたけど、そいつは今目の前にいる。海を越えて、黒い瞳の虹彩がはっきり見えるほどこんなにも近くに。
「背負ってるモンが違うからな」
俺の、薄っぺらいうえに根拠もない、けど心からの願いを簡単に探し当てて、こんな俺にさえ命がけで信じさせる、とてつもない力。
ダメな奴が希望なんか持ったって、得になることなんてなんにもない。
自分の体の皮膚みたいに貼りついていて、自慢できるくらい誰よりも分かっていることだった。だから、それこそ簡単には見つからないように死にものぐるいで何度も何度も鍵をかけたのに、いつの間にかお前は『俺』に触れていた。(なんて奴だろう)
そのうえ、抵抗の手段をさらした俺に、抗えるはずのない容赦することなんて知らない強い瞳でお前はぬけぬけと言うんだ。
清々しいほどひどい奴。
でも…全て暴いたクセに、『知って』いるのに、何で俺に期待するんだ?
お前は『俺』を見たはずなのに…!
(何で…そんな目で見るんだよ…)
このままだと…この瞳になら…俺は自分も惜しくないと思ってしまう…
「てめーの為じゃねぇ。お前をボスにするのは俺のためだ」
(じゃ、じゃあ他の奴でも…)
「ボスに仕立ててやるよ。依頼があればな。ただしなれなきゃ潰す。跡形なく消してやる」
(そうだよね…でも何で俺に五年も費やしているんだ?ダメなら捨てるのがお前の流儀だろう?)
「ダメツナの癖に頭を回すんじゃねぇ」
ソフト帽を深くかぶり直して、口角をほんの少しだけあげてみせて言った。

「楽しくなっちまったからな。そんだけだぞ」
俺はその言葉の意味が分からなかった。とても優しいリボーンの言葉が。だから「…もしさ、俺がなれなかったらどうする?」おれが冗談めいてそんなこと言うと、あいつはたちまち周りの空気を凍らせた。


「死んで腐るはじめの傷を刻んでやる」


てめーの人格なんて知ったこっちゃねぇ。
ありったけの底の見えない暗い傷をくれてやる。
それを見たヤツが絶望にひしがれるくらいのな。
お前の体に致命傷を植え付けて、死んでもなおてめーは俺の物だと主張してやる。
上等なタネをやった分、後はてめーだけで咲かせてみせろ。
逃亡の見返りは死。
死を浸食させるのは俺だ。
それが俺からの『はなむけ』だ、せいぜい持って行け。
墓に名は刻まない。神の祈りなんて必要ない。てめーは死んでも俺の生徒だ。俺だけ知っていればいい。








──そう、これがこいつの真実。
でも…つよい言葉は時に、とても寂しい。




「………リボーン。俺、何ができる?」
「何度も言わすな。ダメツナ」
「…うん」
────明日からまた過酷な朝がはじまる。
でも、この時だけは…このまま時間が止まってくれと願っていた。