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「…ばんげーむ…?」

ツナが呆気にとられてオウム返しに聞き返す。彼の部屋には山本と獄寺とハル、そしてイタリアにいるはずのディーノが姿を見せていて、聞けばリボーンに『盤ゲームの人数が足りねーからお前らこい』と招かれたのだと口を揃えた。

「今日はボンゴレの結束を固めようと思ってな、こうして機会をつくってやったんだぞ」
そう言うリボーンのコスプレ衣装は両腕に腕カバーをした、パソコンのキーの変わりにタイプライターで伝票を打ち込んでいそうな古くさい感じの銀行員だった。また、ツナとリボーンを含めた六人が取り囲む中央にはテーブル、その上には盤ゲームのひとつ、人生ゲームが置かれていた。市販で売られている物よりもいくぶんか大きく見えるそれのスタート地点には駒である色違いの車が五台用意されている。因みに、リボーンは進行役と同時に人生ゲームに無くてはならないBANKを預かる責任者であるのでゲームには参加しない意向のようだ。そして彼の相棒であるレオンは参加者の運命を決めるルーレットに変化していた。

リボーンのやることは何もかもが唐突である。
ツナは五年ものつきあいの経験から、自分の逃げ口がとっくに塞がれていることを瞬時に悟った。だが、人生ゲーム一位通過の人間に与えられる『望みのもの』に少し惹かれてもいた。緩急織りなしたゲーム構成こそが家庭教師の人心掌握術なのだと第六感でわかってはいても、なかなか逆らえないのが悩ましいところであった。

「最初は一人2万ユーロからスタートだ。まずはツナから、そっから時計回りに行くぞ」
リボーンの一声により、順番は強制的にツナ、ハル、ディーノ、山本、獄寺となった。ツナは指名されるままルーレットに手をかけ、回す。カタカタと小気味の良い音をさせてルーレットは回転し、針の先は1を指した。
「あー、1かぁ…」
「ボスのくせに幸先悪ぃーな」
「かっ、関係ないだろー!それに俺ボスじゃないし!」
その声に賛同する者は居らず、ツナの声は部屋いっぱいに空しく響いた。今更否定する方がおかしい運命を否定したいのはツナだけである。
「ツナの車って白だったよな?進めといてやるよ」
スタート地点は山本とディーノ側にあったため、山本が気を利かせる。途端にツナの隣から罵声が飛んだ。
「てッてめー野球野郎!十代目のお車に軽々しく触ってんじゃねーよ!!」
「ごっ獄寺君…!いやでも向こうに駒があるんなら向こうの人に動かして貰った方が俺たち助からないかなー……と思うんだけど…」
ツナの声は控えめである。いくら友達になれたからといっても、怖いものは怖いのだ。
「流石ッス十代目!煩わしいことは全部野球バカにやらせとけって事ですよね!」
「そ…そこまで言ってないよ獄寺君…」
「──なあ、チビ。これ『ファミリーの裏切り者を尾行中、うっかり猫の尻尾を踏む 5マス戻る』ってあるけど、一マスしか進んでないのにここからどうやって戻るんだ?」
「内容までマフィア入ってんのーッ!?」
ツナがよくよく盤を見てみると、『人生山あり谷あり。さまざまな経験をしてマフィアの仲間入りを目指そう!』なんてキャッチコピーが躍っていた。
「たりめーだ、ダメツナ。それとな、言い忘れたが今回はスタート以前のマスも用意したぞ」
言うが早いかリボーンはスタートの横に貼られていた大判のシールをぺりりと剥がした。
「へぇ、二層構造なのなー」
厭な予感を覚えたツナが注意して盤を見渡すと、マスの所々にまるでダイ◎ハウスよろしくめくり紙が貼り付けられているのだった。どれもこれも不吉なにおいがプンプンである。
「…なぁリボーン、その辺りのマスだけ何でイタリア語なの?」
スタート以前としておかれた10マスの全部は色相環をぶち抜いたようなどす黒い色に赤文字で力強く書かれたイタリア語であった。
「人生に犠牲はつきものだぞ。マトモなスタートも切れねぇダメ参加者には罰としてそのマスに書いてある事をこの場で実際にやってもらうからな、今のうちに覚悟しとけ」
「なんだよそれ!今はじめて聞いたよ!」
「何言ってんだ。はじめからバラしたらオレがつまんねーだろ」
「ここまで隠すとこからしてお前絶対マスに凶悪なこと書いてるだろー!!」
「ハハ、大丈夫だってツナ。リボーンもそこまで鬼じゃねーだろーし……どれ、可愛い弟弟子のために俺が一マス読んでやるよ………うわっ…」
ツナをなだめるつもりでディーノが黒マスのひとつに視線を落とした途端、彼の表情は笑顔のまま凍った。痛い沈黙が部屋にたちまち充満した。

「──ツナ、とりあえず次は6以上出そう…な?」
「その言い方凄い怖いんですけどディーノさんーッ!!?」
ディーノのあからさまな作り笑顔に一層の恐怖をかきたてられたツナだった。