「───リボーンっ!いきなり何すんだよ!お陰で十年前の母さんと二人っきりで何喋ったらいいか分かんないで気まずくて仕方なかったんだぞ!」
「“お陰で”貴重な体験ができたんじゃねーか、感謝しろよ」
「誰がするかァーっ!」
ひとつの謎が解決したとたん、八歳のツナは十年前に、十八歳のツナは現代へと引き戻された。景色がくにゃりと歪んだとたん、無表情のカテキョが姿を見せたのでようやく帰還できたことを実感した高校生のツナは安堵を顔に浮かべる前につらつらと怒りもあらわにリボーンへ詰め寄ったのだが、情けなくもたったの一言であっけなく伏されてしまうのだった。
そして生来から諦めの早い生徒は、リボーンにこれ以上歯向かっても徒労に終わるのだと決めてかかり、ふて寝をするときのように自分のベッドに仰向けに倒れこんだ。一方、早々に寝間着を着込んでおきながらリボーンは銃弾の選別をしていた。死ぬ気弾とは違う鈍い色をした銃弾を一発ずつ丁寧に選りわけて、不良の弾を隅へはじいていた。その手際の良い彼の日課をベッドの上から横目で見て、きっと今日は時間がとれなかったのだとツナはさほど気に留めず、ノートを枕元から取り出し黒ずくめの男とチェックを終えた銃弾をチェコ産の愛銃に装填しているリボーンをを何度もじろじろ見比べながら話を続けた。
「でもさ、俺この絵描いた記憶がないから『解決した』って言われても全然実感湧かないんだよな……どういう風に描いたかっていうのはお前から聞いて分かったけどさ…けどまあ…終わったんなら──」
まあいいか、と深く追求せず有耶無耶にさせてツナはさっさと寝てしまおうと薄っぺらなシーツをかぶった。するとめずらしいことにリボーンが返事をかえしてきた。
「オレも今回でひとつ分かったことがあるぞ」
「?」
訝しがってツナはむくりと起き上がった。
「てめーより年下のヤツは面倒みれねぇ」
「え?…は?」
一仕事を終え、凝り固まった体をほぐすように首に手をあて、めずらしく溜息までついて全身にまとわりついた疲労を払いのける。何を言われたのかいまいち呑みこめないでいる生徒にすこしも構わず、自他共に認める超一流の家庭教師はフル装填した拳銃を手の中でぎらりと光らせておいて何でもないことのように言い切った。
「ムカついて殺しそうだからな」
途端、ツナのゆるんだ威勢はみるみる萎んでいって最後にサーッと青くなった。
「は…はは、十年前の俺がリボーンに何やったかは聞かないでおきます……」
「それが懸命だな」
(約束は出来ねーが───覚えといてやるぞ)
「うん?───いま何か言った?」
リボーンのドスがかった声の後ろにもうひとつ彼の声を聞いたような気がして、ツナは訝しがった。
「何でもねーぞ。とっとと明かり消せ」
「あ、うん、ごめん」
戸惑った声を締めくくりに部屋の明かりがパチンと消えた。こうして今日も沢田家の夜はほんの少しだけ謎を胸に包めたまま、こんこんと更けてゆくのだった。
(ねぇ、ずーっと一緒にいてね───リボーン。)